顔のしわ

皮膚は「折りたたまれてはもとに戻る」を繰り返しています。もとに戻る際に働くのが皮膚の弾力ですが、歳をとって弾力が低下すると、もとの状態に戻らなくなり、「折りたたまれた状態の持続」、すなわち「しわ」がつくられます。

顔の皮膚の下には、表情筋と称される多くの筋肉があります。この筋肉の働きで、顔にさまざまな表情がつくられます。このため、顔では「折りたたまれてはもとに戻る」が頻繁に行われており、しわが生じやすい状況にあります。

顔のしわは、表情筋の走行に直行する向きにつくられます。喜び・嫌悪・悲しみ・怒りなど、表情によって働く筋が決まっており、生ずるしわの状態も決まります。たとえば、喜びの表情の多い生活を営んできた人には、「喜びの表情」にしわがつくられます。「老人の顔はその人の一生を表す」というのは、このことをいいます。しわができないようにすることはできません。そうであるなら、福々しい顔つきにしわをつくりたいものです。

顔のたるみ

顔の皮膚の下には脂肪組織が拡がります。表情筋はその脂肪組織の中に埋もれています。重力により、顔の皮膚・脂肪組織は、つねに下方に引っ張られています。若い間は、表情筋の力が顔の皮膚・脂肪組織を支えていますが、歳をとって顔の筋力が弱まると、顔の皮膚のたるみが引き起こされます。目もとのたるみ、頬のたるみ、顎の下のたるみはこのようにして生じます。

顔で脂肪組織が一番多く、重たいのが頬です。したがって、頬のたるみが一番目立ちます。口もとでは、口の入り口(口裂)を囲んで放射状にしわがつくられます。これは、口裂を取り巻く口輪筋という表情筋によるものです。しかし、頬がたれると、これとは別のさまざまなしわが目だってきます。たとえば、小鼻の外から下に伸びる皮膚の溝(鼻唇溝)は、脂肪組織の少ない口もとと多い頬を境しますが、頬がたれることで、この溝が深まるとともに、口裂より下方に伸びるようになります。

表情筋を鍛えることで、顔のたるみを予防することができます。また、表情筋が咀嚼(食物をかみ砕くこと)や嚥下(食物を飲み込むこと)にも関わることからすれば、これらの機能の保持にも有効に働くと考えられます。

歯の喪失と顔つき

歯を失うと、歯を支えていた骨(歯槽骨)が吸収され、歯ぐきも消失してしまいます。

歯がある時には、口唇(くちびる)や頬は歯によって内側から支えられ、適度な緊張感と立体感がありましたが、歯を失って内側からの支えがなくなると、緊張感と立体感は消失します。

口もとの陥凹感は上顎で強く、下顎では、顎の下のへりの部はそれほど吸収されないため、前方に突出ぎみとなります。歯の喪失で上顎と下顎の間の距離が狭まり、顔の下半分の長さが短くなります。また、口唇の赤い部は巻き込まれて薄く見え、口を固く結んだかのような印象を与え、それに伴って、口もとにさまざまな溝が目立ってきます。いわゆる老人の顔つきです。

入れ歯を入れることで、歯の喪失に伴う老人の顔つきは、ある程度改善することができます。

また、入れ歯を入れることで、口もとや頬の筋は使われて鍛えられますから、頬のやるみのある程度の改善が期待できます。

しかし、もう一つの大きな老人性変化である顔のしわは、入れ歯でなくすことは容易ではありません。

口と老化

高齢者の舌には、若年者に見られるような張りや立体感はなく、全体的に緊張がなく、平べったい感じがし、大きくなったような印象がします。また、舌を構成する筋肉は、萎縮して動きが悪くなり、舌が口の天井(口蓋)を押す力も低下します。味覚の感覚器である味蕾が、舌の上面の特定部位に存在しますが、味蕾の数が減少し、味覚能力が低下します。

唾液(つば)の出る量は老人では減少しますが、唾液を作る能力にはゆとりがあり、問題はあまりでません。しかし、血圧を下げる薬などを飲んでいる場合には、薬の影響でさらに唾液が減少し、口腔の乾燥感を生ずる可能性があります。

美しい口もとを保つには

老いを止めることはできません。実年齢より若く美しく老いるためには、歯科領域に限っていうなら、「美しい口もとを保つことが必要」といえます。そのためには、「歯を失わない、失ったら補う」ということが基本です。「歯並びが美しい」に越したことはありません。「頬をたるませない」ことも重要で、そのためには、よくかみ、また顔の筋肉を積極的に鍛えることが必要となります。